生活介護と就労移行支援を同じ建物で運営している、児童発達支援と放課後等デイサービスを一体で回している――多機能型の事業所では、こうした複数サービスの併設が日常です。そして現場からいちばん多く上がる不満が「同じ内容を何度も書いている」というものです。
この記事は、介護・障がい福祉・児童福祉の多機能型事業所を運営する経営者・管理者に向けて、記録の重複入力をなくす考え方を整理します。結論を先に言えば、一本化すべきなのは提出する書式ではなく、その手前にある一次記録と変換の工程です。書式を統一しようとすると制度に抵触しますが、入口を1つにすることは制度と衝突しません。
多機能型で記録が増えるのは、現場の不手際ではない
サービスごとに別系統の書式が積み上がる
多機能型は、複数の障害福祉サービスを1つの事業所として一体的に運営する形態です。厚生労働省の通知(平成18年12月6日 障発第1206001号)では、多機能型事業所の利用定員の合計は20人以上とされ、生活介護・自立訓練・就労移行支援は6人以上、就労継続支援A型・B型は10人以上という単位ごとの下限も示されています(出典: 厚生労働省「指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準について」平成18年)。
重要なのは、これが「1つの事業所」として扱われる一方で、サービスの単位は解消されないという点です。個別支援計画はサービスごとに作成され、サービス提供の記録もサービスごとに求められます。つまり多機能型は、運営を束ねる制度であって、書類を束ねる制度ではありません。記録が増えるのは現場の非効率ではなく、制度の構造がそうなっているからです。
兼務の制限が「別々の運用」を固定する
同じ通知では、設備についても訓練・作業室はサービスごとに確保する必要がある一方、相談室・洗面所・便所・多目的室などは兼用できるとされています。従業者についても、管理者とサービス管理責任者を除き、サービスごとに配置される職員間の兼務は原則として認められません(利用定員の合計が19人以下の場合など、一定の緩和はあります)。
この構造の結果、職員の頭の中でも業務が「生活介護の仕事」「就労移行の仕事」に分かれます。すると、同じ利用者について今日観察したことでも、生活介護の用紙と就労移行の用紙に別々に書くという運用が自然に固定されます。人を増やしても解消しません。仕組みの側を変える必要があります。多機能型で併設されやすいサービスごとの位置づけはA型・B型・移行支援の違いと生成AI活用法を比較でも整理しています。
「一本化」を4つの層に分けて考える
層を分けないと議論が噛み合わない
記録の一本化を検討すると、たいてい「共通の記録用紙を作ろう」という話になり、そして必ず止まります。サービスごとに求められる項目が違うため、全部を満たす用紙は巨大になり、現場はかえって書きにくくなるからです。
そこで、記録を次の4つの層に分けます。第1層は一次記録(誰が・いつ・何をして・利用者がどう反応したか)。第2層は変換(同じ素材を、提出先の書式に合う文章に組み替える工程)。第3層は提出書式(サービスごとに定められた記録・計画・モニタリング)。第4層は保存と検索です。
重複入力の正体は第2層の欠落
三重入力が起きている事業所では、第2層が存在せず、職員が頭の中で変換しています。人間が変換を担っている限り、変換の回数だけ入力が発生します。逆に第2層を仕組みとして独立させれば、第1層は1回で済み、第3層は今のままで構いません。
ここが生成AIの使いどころです。生成AIが得意なのは、事実を作ることではなく、与えられた素材を指定した形式に組み替えることです。第2層は、まさにその作業しかありません。同じ観察メモから、生活介護のサービス提供記録に必要な視点と、就労移行の支援記録に必要な視点を、それぞれ抜き出して文章化する。事実の出所は第1層の一次記録に限られるため、内容の裏づけも追いやすくなります。
層ごとの整え方
第1層:一次記録の項目を先に決める
最初にやるべきは、AIの導入ではなく一次記録の項目定義です。サービスをまたいで共通に使える項目は、実際には多くありません。おおむね「日時」「対応した職員」「場面(活動・作業・送迎・面談など)」「利用者の言動と様子」「職員の対応」「次回への申し送り」に収まります。
ここで気をつけたいのは、書式ごとの評価語をこの層に持ち込まないことです。「訓練目標の達成度」のような書式固有の判断は第3層の仕事です。第1層に判断を混ぜると、結局サービス別の用紙に戻ってしまいます。第1層は事実だけに絞ります。
第2層:変換のルールを文章で残す
変換を仕組みにするには、「この一次記録から、どの書式のどの欄に、何を書くのか」という対応関係を文章で書き出しておく必要があります。この対応表がないままAIに任せると、出力の粒度が日によって変わり、現場が信用しなくなります。
また、変換した文章はそのまま提出物にせず、担当職員が確認して確定させる運用にします。AIが作るのは下書きであり、記録の責任者は職員です。この線引きを最初に決めておくと、運営指導の場面でも説明できます。記録の書き方そのものの整え方は運営指導で指摘されない記録の書き方と仕組み化を参照してください。
第3層:提出書式は変えない
ここは触らないのが正解です。サービスごとの記録・個別支援計画・モニタリングの様式は、指定基準や自治体の指導に沿って整えられているものです。効率化のために様式を独自に統合すると、指導時に説明できないリスクを負います。効率化は第1層と第2層で取り、第3層は制度どおりに保ちます。
第4層:保存は「利用者単位で横断できるか」で設計する
記録の保存期間は、指定障害福祉サービス等の基準に基づき各自治体の条例で定められており、完結の日から5年としている自治体が多く見られます。起算点の解釈も自治体によって表現が異なるため、事業所所在地の条例・通知で確認してください。
その上で、経営の観点から重要なのは保存年数よりも検索できる形になっているかです。多機能型の強みは、同じ利用者を複数のサービスで長期間見られることにあります。生活介護から就労移行へ移った利用者について、以前の様子をすぐ引ける状態なら、支援の連続性は格段に上がります。サービス別のバインダーに分けて紙で綴じている限り、この強みは活かせません。引き継ぎの仕組み化については介護施設の申し送り改善|属人化した引き継ぎを解消する3つの仕組みも参考になります。
進め方:1サービス・1書式から始める
全サービス同時に変えない
多機能型は関係者が多いため、全サービスを同時に変えると、どこで詰まったのか分からなくなります。最初は1つのサービスの1つの書式に絞り、一次記録から変換までの流れを2〜4週間回してみます。判断材料は「職員の入力回数が減ったか」と「出来上がった記録を管理者が直す量が減ったか」の2点で十分です。
個人情報の取り扱いを先に決める
サービスをまたいで記録を1か所に集めるということは、利用者情報の共有範囲が変わるということです。同一事業所内の利用であっても、利用目的の説明と社内の閲覧権限の設計は事前に整理しておく必要があります。誰がどのサービスの記録まで見られるのかを曖昧にしたまま集約すると、便利さと引き換えに管理の説明がつかなくなります。
まとめ
多機能型事業所の記録が重いのは、職員の書き方が悪いからではなく、サービス単位が制度上残るからです。だからこそ、統一の対象を間違えないことが要点になります。提出書式は制度どおりに保ち、一次記録の入口を1つにし、変換の工程を仕組みとして独立させる。この順序で整えると、現場の入力回数は減り、蓄積した記録は引き継ぎと利用者分析に使える資産になります。
よくある質問
Q. 共通の記録用紙を1枚作れば済むのではないですか?
A. サービスごとに求められる項目が異なるため、すべてを満たす1枚は大きくなりすぎて現場が使えなくなります。共通化するのは事実を書き留める一次記録の項目までにとどめ、提出書式はサービスごとに残すほうが続きます。
Q. 多機能型は1つの事業所なので、記録もまとめてよいのでしょうか?
A. 多機能型は運営を一体化する仕組みですが、サービスの単位そのものはなくなりません。個別支援計画やサービス提供の記録はサービスごとに求められます。まとめられるのは提出前の素材であり、提出物ではないと考えてください。
Q. 記録の保存期間はどこを見れば確認できますか?
A. 国の基準を踏まえて各自治体が条例で定めており、完結の日から5年としている自治体が多く見られますが、起算点の表現には差があります。事業所所在地の自治体が公開している条例と指導関係の通知で確認してください。
監修
株式会社オルデンティアコーポレーション 福祉DXコンサルタント
福祉施設のDX・生成AI活用を専門に支援。本記事は現場の実務課題に基づき執筆・監修しています。