相談支援専門員の業務を圧迫しているのは、訪問そのものよりも訪問後の書類化です。モニタリング報告書は担当件数に比例して積み上がり、月末に一気に押し寄せます。件数が増えれば残業が増える構造から抜け出せないまま、担当上限の見直しだけで対応している事業所も少なくありません。
この記事は、指定特定相談支援事業所・指定障害児相談支援事業所の管理者と相談支援専門員に向けて、モニタリング記録の負担を「個人の書くスピード」ではなく「工程の設計」で下げる考え方を整理します。人を増やすのではなく、同じ人数で処理できる量を増やす方向の話です。
モニタリング記録の時間は「書く時間」ではない
記録に時間がかかるという相談を分解すると、実際に文章を打ち込んでいる時間は思ったほど長くありません。多くは、その前後の作業に時間が吸われています。
工程1:思い出す
訪問から記録作成までに数日空くと、まず記憶をたどる作業が発生します。メモは断片的で、どの発言が本人のもので、どれが家族の補足だったかが曖昧になります。この「思い出す」時間は記録に残らないため、業務量として認識されにくい部分です。
工程2:並べ替える
面談の会話は時系列で進みますが、モニタリング報告書は項目別に整理された様式です。会話の順番と様式の順番が一致しないため、聞いた内容を項目に振り分ける作業が必要になります。ここが実務上もっとも手間のかかる工程です。
工程3:整える
振り分けた内容を、第三者が読んで理解できる文章にします。ここは専門性が要る部分ですが、毎回ゼロから文体を考えているとしたら、それは専門性ではなく非効率です。
つまり削れるのは工程1と工程2であり、専門職が時間をかけるべきなのは工程3の後半、つまり評価と判断の部分です。
3つの型に分けて平準化する
工程を削るには、モニタリングを一続きの作業として扱うのをやめ、性質の違う3つの型に分けます。型ごとに使う道具とかける時間を決めると、担当件数が増えても崩れにくくなります。
型1:訪問の型 ― 会話を後で使える形で残す
訪問時に手書きメモへ要点を写し取ろうとすると、本人の話に集中できません。本人・家族の同意を得たうえで録音し、メモは「その場で気づいた仮説」だけに絞ります。会話の再現は後工程に任せる前提にすると、面談中の注意を本人の表情や生活の様子に向けられます。同意の取り方は福祉事業所のAI利用同意書の作り方の記事で5項目に整理しています。
型2:記録の型 ― 項目に振り分けるところまでを自動化する
録音を文字起こしし、モニタリング報告書の項目に沿って要点を振り分けたたたき台を作ります。ここで重要なのは、様式の項目名をそのままテンプレートとして機械側に教えておくことです。項目名が固定されていれば、出力の形も安定します。相談支援専門員は、たたき台を読みながら評価と判断を書き加える作業から始められます。
型3:反映の型 ― 記録を計画の根拠として使う
モニタリングの目的は報告書を作ることではなく、計画を見直すことです。過去のモニタリング記録を横断して読めるようにしておくと、「3か月前と比べて何が変わったか」を根拠つきで書けます。記録が蓄積されて検索できる状態にあるかどうかが、この型が回るかどうかを決めます。
導入で失敗しやすい3つのポイント
録音の同意を口頭で済ませてしまう
相談支援は本人・家族との信頼関係が前提の業務です。録音と機械処理を行うことについて、目的と保存の扱いを書面で示し、いつでも撤回できることを伝えておきます。同意していない利用者については従来の方法で記録する運用を残しておくと、現場が判断に迷いません。
出力をそのまま報告書にしてしまう
たたき台は事実の並べ替えまでを担うものであり、専門職としての評価は含まれません。確認と修正を経て確定させる工程をルールとして明文化し、誰が確定させたかを残します。この点は運営指導で指摘されない記録の書き方の記事で扱った「事実と評価を分ける」考え方と同じです。
一人だけで試して終わる
効率化は担当者一人の工夫では定着しません。様式・テンプレート・確認手順を事業所の共通ルールにしてはじめて、担当者が変わっても質が保たれます。サービス管理責任者の業務でも同じ構造が起きており、サビ管の業務負担を減らす方法の記事で整理しています。
件数増に耐える体制は「記録の蓄積」から生まれる
記録を効率化する取組は、短期的には残業の削減として現れます。しかし本当の効果は、蓄積された記録が使える状態になることで現れます。担当変更時の引き継ぎ、複数事業所との連携、支援の振り返り。いずれも「過去の記録を必要なときに取り出せるか」に依存しています。
厚生労働省は、障害福祉分野の生産性向上を、支援者一人一人の力を引き出しチームで利用者に届けることで新たな価値を生み出すことと位置づけ、介護テクノロジーの導入・活用促進や手続負担の軽減等を通じて間接業務の効率化と直接処遇業務の負担軽減・質の向上を進める方針を示しています(出典: 厚生労働省「障害福祉分野における生産性向上・手続負担軽減」)。モニタリング記録の整備は、この文脈では間接業務の効率化そのものです。
導入を検討する場合は、いきなり全件を対象にせず、担当件数の多い相談支援専門員1名・1か月分から始め、工程1と工程2にかかっていた時間がどれだけ減ったかを測ってください。効果が出た型だけを事業所のルールに昇格させる進め方が、もっとも定着します。
よくある質問
Q. 訪問先で録音の許可が得られない場合はどうすればよいですか?
A. 従来どおり手書きメモと後追いの記録で対応し、その利用者は対象外として管理してください。同意の有無を利用者ごとに管理できる状態にしておくことが前提です。全件に適用できないことを理由に導入を止めるより、同意が得られた分だけでも工程を短くするほうが現実的です。
Q. モニタリング報告書の様式は自治体指定のものを使う必要がありますか?
A. 様式の取扱いは指定権者によって異なり、参考様式が示されている場合があります。まず自治体の案内を確認してください。指定様式がある場合も、その項目名をテンプレートとして登録すれば同じ手順が使えます。
Q. 文字起こしの精度が低く、かえって修正に時間がかかりませんか?
A. 固有名詞や事業所名、専門用語を辞書として登録できるかが差になります。登録なしで運用すると、地名や利用者名の誤変換の修正に時間を取られます。試用の段階で、自事業所でよく使う語を登録したうえで精度を確認してください。
Q. 面談記録全般にも同じ考え方が使えますか?
A. 使えます。会話を項目別の様式に変換するという構造は共通です。介護分野の面談についてはケアマネの面談記録をAIで整える記事で3ステップにまとめています。
※本コラムを運営するHope Care AIでは、福祉現場の記録・書類業務に関する資料をお問い合わせページからご請求いただけます。
監修
株式会社オルデンティアコーポレーション 福祉DXコンサルタント
福祉施設のDX・生成AI活用を専門に支援。本記事は現場の実務課題に基づき執筆・監修しています。