「職員が自分のスマートフォンで生成AIを使って記録の下書きをしているようだ」。この記事は、介護・障がい福祉・児童福祉の事業所の経営者・管理者に向けて、私物端末での生成AI利用(BYOD)を認めるかどうかの判断と、認める場合の最低条件を整理します。
私物端末の問題は、禁止すれば解決するものではありません。禁止しても、業務が回らなければ見えないところで使われるからです。実態を把握したうえで、どこまでなら説明できるかを決める必要があります。
まず法令上の前提を確認する
安全管理措置と従業者の監督
個人情報保護法は、取り扱う個人データの漏えい等の防止のために必要かつ適切な安全管理措置を講じることを求めています(法第23条)。あわせて、従業者に個人データを取り扱わせる場合には、必要かつ適切な監督を行うことも定められています(法第24条)。出典はいずれもe-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」です。
同法のガイドライン(通則編)では、安全管理措置は組織的・人的・物理的・技術的の各側面から検討することとされています。私物端末の話は、このうち物理的・技術的な面に直結します。
「私物だから管理できない」は理由にならない
端末の所有者が誰かにかかわらず、事業所の個人データを取り扱わせている以上、事業所側に監督が求められる構造は変わりません。私物端末で業務データを扱わせるなら、その状態でどう安全管理措置を説明するのかを用意しておく必要があります。
3つの選択肢から選ぶ
選択肢1:禁止する
最も説明しやすい選択です。ただし、法人が業務用の端末やアカウントを用意していない状態で禁止だけを通知すると、記録や連絡の実務が個人の工夫で埋められ、結果として把握できない利用が残ります。禁止を選ぶなら、代わりの手段をセットで示すことが前提になります。
選択肢2:限定して認める
法人が契約したサービスに法人アカウントでログインする形に限り、私物端末からの利用を認める方法です。端末は私物でも、データの入り口と出口が法人側にある状態を作ります。中小規模の法人で現実的な着地点になりやすい選択です。
選択肢3:業務端末を配布する
管理の観点では最も明快ですが、費用と管理工数が発生します。全職員に配布するのではなく、記録や連絡を担う役割に絞って配布し、それ以外は選択肢1とする組み合わせも取れます。
認める場合の5つの最低条件
条件1:法人アカウントでの利用に限定する
職員の個人アカウントで業務データを扱うと、その履歴が法人の管理外に残ります。誰がいつ何を扱ったかを確認できない状態は、監督を行っていると説明しにくくなります。法人契約のアカウントでのみ業務利用を認める、という線引きが出発点です。アカウント管理の実務は生成AIのパスワード・多要素認証|法人の実務基準4項目で整理しています。
条件2:端末側に業務データを保存させない
ダウンロード、スクリーンショット、カメラロールへの保存など、端末に業務データが残る経路をふさぎます。技術的に完全に止められない場合でも、保存しないことを利用条件として明示し、保存先は法人の管理領域に統一します。保管場所の統一は支援記録の保管場所を法人で統一する|クラウド利用時の確認項目で扱っています。
条件3:端末の基本的な状態を条件にする
画面ロックの設定、OSを最新に保つこと、紛失・盗難時にただちに事業所へ連絡すること。この3点は私物端末を業務に使う際の最低ラインです。難しい要求ではないぶん、条件として書いておかないと守られません。
条件4:止める手順を先に決める
退職、異動、長期休職のときに、私物端末からのアクセスをどう止めるかを決めておきます。端末を回収できないからこそ、アカウント側で止める手順が要ります。この手順が用意できないなら、そもそも容認すべきではありません。内部からの持ち出しリスクの考え方は生成AI利用時の内部不正・持ち出しリスク対策で整理しています。
条件5:対象者と範囲を台帳に残す
誰に、どの範囲で、いつから認めているかを一覧にします。台帳がないと、条件4の停止手順を実行する対象が分かりません。表計算ソフト1枚で足ります。
運用を続けるための3つの注意点
入力してよい情報を具体的に示す
「個人情報を入力しないこと」だけでは現場は判断できません。氏名、生年月日、事業所名と組み合わせた状況、写真、といった単位で禁止対象を挙げ、代わりに「Aさん」「利用者本人」のように置き換える書き方を示します。
職員の負担を増やす方向に使わない
私物端末の容認は、勤務時間外の対応を暗黙に求める形になりやすい面があります。業務として行うことは勤務時間内に行うという原則を、あわせて確認しておきます。
年1回、実態を確認する
ルールを決めた後に実態がずれていくのが、この領域の常です。台帳と実際の利用者が一致しているか、条件が守られているかを年1回点検し、ずれていれば条件のほうを見直します。
よくある質問
Q. 私物端末での生成AI利用を全面的に禁止すれば、法令上の問題はなくなりますか。
A. 禁止を決めただけでは足りず、周知と、守られているかの確認までが監督の実務です。あわせて、業務に必要な手段を法人側で用意していないと、実態として使われ続ける状態が残ります。
Q. 職員から「業務効率が落ちる」と反対されています。どう説明すればよいですか。
A. 使わせないことが目的ではなく、扱う情報の種類で線を引く、と説明するのが現実的です。個人データを含まない文例作成や言い換えは認め、支援記録そのものを扱う作業は法人アカウント経由に限る、といった区分を示します。
Q. 台帳には何を書けばよいですか。
A. 氏名、所属、認めた範囲、開始日、終了日、使用するサービス名の6項目があれば、停止手順の実行と点検には足ります。項目を増やしすぎると更新されなくなります。
監修
株式会社オルデンティアコーポレーション 福祉DXコンサルタント
福祉施設のDX・生成AI活用を専門に支援。本記事は現場の実務課題に基づき執筆・監修しています。