「生成AIとICTを組み合わせる」と聞くと、大がかりなシステム刷新を想像するかもしれませんが、実際に効果を上げている事業所の多くは、既存の業務フローに部分的に組み込むところから始めています。ここでは架空の事業所を例に、業務改善がどのように進んでいくかの考え方を紹介します。
ケース:多機能型事業所A(職員15名・利用者40名規模)を想定した場合
紙の記録とExcel管理が混在し、計画書の作成やモニタリングにサービス管理責任者が多くの時間を割かれている、という状況は多くの事業所に共通する課題です。以下、こうした状況を想定した改善の考え方を段階的に見ていきます。
フェーズ1:業務の棚卸し
まず着手すべきは新しいツールの導入ではなく、現状の業務時間の棚卸しです。「記録」「計画書」「請求」「シフト管理」など、業務ごとにどれくらいの時間がかかっているかを大まかにでも可視化します。
- 記録業務:職員一人あたり1日40〜60分
- 個別支援計画・モニタリング:月間で管理者20〜30時間
- 会議・申し送り:週あたり2〜3時間
この棚卸しをせずにツールを導入すると、「導入したが何が変わったか分からない」という結果に陥りやすくなります。
フェーズ2:ICT基盤の整備
記録や計画書のデータを電子化し、クラウド上で一元管理できる状態を作ります。紙とExcelが混在した状態では、生成AIに渡す情報の整理にかえって手間がかかってしまうため、まずデータの置き場所を整えることが土台になります。
ICT化と生成AI活用は「まず記録をクラウドに一元化し、そのうえで文章化の部分に生成AIを組み込む」という順番で進めると、混乱が少なく定着しやすくなります。
フェーズ3:生成AIを部分的に組み込む
いきなり全業務にAIを導入するのではなく、最も時間のかかっている工程(多くの場合は計画書やモニタリング報告書の文章化)から試験的に導入します。数週間〜1か月程度の試行期間を設け、職員からのフィードバックを集めながら運用ルールを固めていきます。
フェーズ4:効果測定と横展開
試行導入した部署で効果が確認できたら、他の業務・他の部署へ展開していきます。この段階で重要なのは、「時間がどれだけ減ったか」だけでなく、「その分職員が何に時間を使えるようになったか」まで確認することです。
業務改善を急ぐあまり、一度に多くの業務をAI化しようとすると、職員がついていけずかえって混乱を招くことがあります。小さく始めて、効果を確認しながら段階的に広げることが遠回りに見えて実は近道です。
改善を進めるうえでの心構え
- ツール導入をゴールにせず、業務フロー全体の見直しとセットで考える
- 現場職員の声を継続的に拾いながら運用を微調整する
- 「時短できた時間で何をするか」まで事業所として方針を持つ
業務改善は一度きりのプロジェクトではなく、継続的な見直しのプロセスです。生成AIとICTはその手段のひとつであり、目的は「職員が利用者と向き合う時間を確保すること」にあるという原点を忘れずに進めることが大切です。
監修
株式会社オルデンティアコーポレーション 福祉DXコンサルタント
福祉施設のDX・生成AI活用を専門に支援。本記事は現場の実務課題に基づき執筆・監修しています。