「生成AIを業務に使いたいが、安全管理措置として何をどこまでやればいいのか分からない」という声を、障がい福祉・介護事業所の管理者からよく伺います。個人情報保護法は事業者に対して安全管理措置を講じる義務を課していますが、条文自体は抽象的で、生成AIという新しい道具にそのままあてはめるのは簡単ではありません。この記事ではQ&A形式で、現場でよくある疑問に答える形で整理します。
Q1. 「安全管理措置」とは、そもそも何を指しますか
個人情報保護法でいう安全管理措置は、大きく分けて「組織的」「人的」「物理的」「技術的」の4つの側面から構成されると整理されることが一般的です。生成AIとの関係では、特に技術的安全管理措置(アクセス制御、通信の暗号化、ログの取得など)と組織的安全管理措置(利用ルールの策定、責任者の設置、点検体制)が重要になります。単に「AIツールを導入した」だけでは不十分で、その利用を組織としてどう管理するかという体制づくりが本質です。
Q2. 福祉事業所特有の注意点はありますか
障がい福祉サービスでは、利用者の心身の状態、家族構成、支援計画の詳細など、要配慮個人情報に該当しうる情報を日常的に扱います。これらは一般的な個人情報よりも取り扱いに慎重さが求められるため、生成AIに入力する情報の範囲を職種・場面ごとに明確化しておくことが望ましいとされています。「記録の下書きを効率化したい」というニーズは自然ですが、その裏で何を入力してよいかのガイドラインが曖昧なまま現場任せにすると、意図せず範囲外の情報が入力されるリスクが高まります。
「入力してよい情報」を具体例つきで職員向けに提示すると迷いが減ります。例えば「支援の一般的な進め方の相談はOK、利用者の氏名・生年月日・診断名を含めた相談はNG」といった形で、〇×の線引きを可視化するだけでも運用の質が変わります。
Q3. 技術的安全管理措置として具体的に何をチェックすればよいですか
- 通信経路が暗号化されているか(HTTPS等の利用)
- アカウントごとのアクセス権限が適切に分離されているか
- 誰が・いつ・何を入力したかのログが残る仕組みになっているか
- 退職者・異動者のアカウントが速やかに無効化される運用になっているか
- 生成AIサービス側のデータ保存・学習利用の設定を確認し、必要に応じてオプトアウトしているか
これらは一度設定すれば終わりというものではなく、定期的な棚卸しが必要です。特に法人内で複数の生成AIツールが並行して使われているケースでは、部署ごとに設定がバラバラになりがちなので注意が必要です。
Q4. 組織的な体制はどう作ればよいですか
理想は「生成AI利用に関する責任者(もしくは委員会)」を明確にし、利用ルールの策定・見直し・職員からの相談窓口までを一元化することです。中小規模の事業所ではフルタイムの専任担当を置くのは難しいことも多いですが、既存の個人情報保護管理者やコンプライアンス担当者が兼務する形でも構いません。重要なのは「誰に聞けばよいか」が職員に周知されていることです。
Q5. 導入している支援システム側の対応は関係しますか
自法人で個別に生成AIツールを契約する場合と、既存の福祉業務支援システムに組み込まれた生成AI機能を使う場合とでは、安全管理措置の考え方が変わってきます。後者の場合、システム提供事業者側がどのようなセキュリティ対策を講じているかが重要な判断材料になります。Hope Care AIのような介護・福祉向けの生成AI/ICTクラウドでは、こうした運用面の設計があらかじめ組み込まれていることが多く、事業所側で一からルールを構築する負担を軽減できる可能性があります。
Q6. 何から手をつければよいか分からない場合は
まずは「現状の可視化」から始めることをおすすめします。どの職員が、どのツールを、どんな場面で使っているかを棚卸しし、そのうえでリスクの高い使い方(要配慮個人情報の入力など)を優先的に是正していく、という段階的なアプローチが現実的です。すべてを一度に完璧にしようとすると現場の反発を招きやすく、かえって形骸化してしまいます。安全管理措置の内容や十分性の判断については、個別の状況によって異なるため、専門家(弁護士やコンサルタント)に確認しながら進めることが望ましいでしょう。
生成AIの活用は、正しく運用すれば記録業務の負担軽減や支援の質向上に大きく貢献します。安全管理措置を「制約」ではなく「安心して使い続けるための土台」として位置づけ、無理のない範囲から整備していくことが、結果的に長く使えるAI活用につながります。
監修
株式会社オルデンティアコーポレーション 福祉DXコンサルタント
福祉施設のDX・生成AI活用を専門に支援。本記事は現場の実務課題に基づき執筆・監修しています。