居宅介護や重度訪問介護といった訪問系サービスは、施設型のサービスとは異なり、支援員が利用者の自宅など複数の場所を移動しながら支援を行うという特徴があります。この働き方の違いから、生成AI・ICT活用のポイントも施設系サービスとは異なる面があります。本記事では訪問系サービスならではの課題を踏まえ、生成AIをどう活かせるかを考えます。
訪問系サービス特有の業務課題
訪問系サービスでは、支援員が事業所に戻ってからまとめて記録を作成するケースが多く、移動時間や訪問件数の多さから記録作成が後回しになりがちという課題があります。また、複数の支援員が同じ利用者を担当する場合、引き継ぎ情報の共有が不十分だと支援の質にばらつきが出るおそれもあります。
- 訪問先ごとに記録がたまり、まとめて作成する負担が大きい
- 複数支援員間での情報共有・引き継ぎが難しい
- 移動時間が多く、事業所での事務作業時間が限られる
スマートフォンからの記録入力と生成AIの組み合わせ
訪問系サービスでは、支援員がスマートフォンやタブレットから訪問先でその場に近いタイミングで記録を入力できる仕組みが特に有効です。短いメモ書きの入力から、生成AIが読みやすい報告文の下書きを自動生成することで、事業所に戻ってからの記録作成時間を短縮できる可能性があります。
訪問直後のスキマ時間に要点だけメモしておき、あとで生成AIに文章化してもらう運用にすると、正確な記憶が新しいうちに記録の骨子を残せるため、記録の質と効率の両立がしやすくなります。
引き継ぎ情報の共有における活用
重度訪問介護のように長時間・複数支援員が関わるサービスでは、支援員間の引き継ぎ情報が支援の質を左右します。生成AIを使って過去の記録から要点を要約し、次に訪問する支援員が短時間で状況を把握できるようにする使い方も考えられます。
- 直近の体調変化・特記事項の要約
- 利用者・家族からの依頼事項の整理
- 次回訪問時の留意点の抽出
訪問系サービスにおける記録の注意点
訪問系サービスの記録は、利用者の自宅というプライベートな空間での支援内容を含むため、特に慎重な取り扱いが求められます。生成AIを活用する場合も、個人情報や生活状況に関する情報がどのように扱われるかを事前に確認し、事業所内で運用ルールを定めておく必要があります。
訪問先の通信環境によっては、リアルタイムでの記録入力が難しい場合もあります。オフライン入力後に同期できる仕組みかどうかも、システム選定時の確認ポイントになります。
移動時間の多いサービスだからこそのシステム選び
訪問系サービスにICT・生成AIツールを導入する際は、施設系サービス向けに設計されたシステムをそのまま流用するのではなく、モバイル対応の使いやすさや、複数訪問先の記録をまとめて管理できるかといった観点で選定することが望ましいです。
| 確認ポイント | 訪問系サービスでの重要度 |
|---|---|
| スマホ・タブレット対応 | 高い |
| オフライン入力・同期機能 | 高い |
| 複数支援員間の情報共有機能 | 高い |
| 生成AIによる記録文章化 | 中〜高い |
ケアマネジャー・相談支援専門員との情報連携
障がい福祉の訪問系サービスの利用者の中には、介護保険サービスと併用している方や、複数の福祉サービスを組み合わせて利用している方もいます。こうしたケースでは、相談支援専門員やケアマネジャーとの情報連携が支援の質を左右します。生成AIで記録を要約し、連携先に共有しやすい形式に整えることで、関係者間の情報格差を減らす一助となります。
強度行動障がい等、専門性の高い支援における記録の重要性
重度訪問介護の対象者の中には、強度行動障がい等により専門性の高い対応が求められる方もいます。こうしたケースでは、支援員間で対応方法の一貫性を保つことが特に重要であり、記録の質がそのまま支援の質に直結します。生成AIを使って過去の対応記録から効果的だった対応方法を整理しておくと、新しく担当する支援員への引き継ぎがしやすくなり、対応の一貫性を保つ助けになります。
家族介護者との連携における生成AIの役割
居宅介護や重度訪問介護では、家族が主たる介護者として日常的に関わっているケースも多く見られます。支援員の訪問記録が、家族への申し送りの役割を兼ねることもあるため、専門用語を避けた分かりやすい記録づくりが求められます。生成AIに「家族にも伝わりやすい表現で」と指示を加えることで、専門的な支援記録と家族向けの申し送りメモを、それぞれの目的に応じて使い分けやすくなります。
複数事業所を掛け持ちする支援員への配慮
訪問系サービスでは、非常勤やパート勤務の支援員が複数の事業所を掛け持ちしているケースも珍しくありません。そのため、事業所ごとに操作方法が大きく異なるシステムを導入していると、支援員の混乱や入力ミスにつながるおそれがあります。可能であれば、業界内で広く使われている操作性の高いシステムを選ぶことで、他事業所でも似た操作に慣れている支援員がスムーズに使い始められるという利点も期待できます。
重度訪問介護特有の長時間支援における記録の工夫
重度訪問介護は1回の支援時間が長時間に及ぶことも多く、一件あたりの支援内容も多岐にわたります。長時間の支援を一つの記録にまとめようとすると、支援員の負担が大きくなりがちです。生成AIを活用する場合は、支援時間中の要所要所で短いメモを複数回に分けて入力し、最後にまとめて一つの記録として文章化する、といった工夫をすることで、負担を分散させながら記録の抜け漏れを減らすことができます。
- 長時間支援は複数回に分けてメモを取る
- 体調変化やヒヤリハットがあった場合は、その都度メモを残す
- 最終的な記録は生成AIでまとめて文章化し、支援員が確認する
利用者・家族への説明という観点
訪問系サービスは利用者の自宅というプライベートな空間で提供されるため、生成AI・ICTツールの活用について、利用者やご家族から質問を受けることもあるかもしれません。記録の作成方法や情報の取り扱いについて説明を求められた際は、専門用語を避け、「記録を分かりやすくまとめるための道具として使っている」といった平易な言葉で説明できるよう、事業所内であらかじめ想定問答を準備しておくと安心です。
ヘルパー不足という課題と業務効率化の関係
訪問系サービスの多くの事業所では、支援員(ヘルパー)の担い手不足が長年の課題となっています。限られた人員でサービス提供を続けるためには、一件あたりの訪問にかかる事務作業の負担をできる限り軽減し、支援員が訪問業務そのものに集中できる環境を整えることが重要です。生成AI・ICTツールによる記録作成の効率化は、直接的な人員確保にはつながらないものの、既存の支援員の負担軽減という形で、実質的な人手不足の緩和に寄与しうる取り組みのひとつと言えます。
- 記録作成にかかる時間を削減し、訪問件数を維持しやすくする
- 事務作業の負担軽減により、離職防止につながる可能性がある
- 新人支援員の記録作成の習熟をサポートする効果も期待できる
訪問系サービスならではの安全管理との両立
居宅介護や重度訪問介護では、支援員が一人で利用者宅を訪問することが多く、緊急時の連絡体制や安全確認も重要な業務のひとつです。ICTシステムの中には、訪問開始・終了の打刻機能とあわせて、緊急連絡ボタンや位置情報の共有機能を備えたものもあります。生成AIによる記録作成の効率化とあわせて、こうした安全管理機能の有無も確認しておくと、支援員が安心して訪問業務にあたれる環境づくりにつながります。
- 訪問開始・終了の打刻と連動した記録管理
- 緊急時の連絡手段(管理者への即時通知など)
- 訪問スケジュールの共有・変更管理のしやすさ
サービス提供責任者の業務負担軽減という視点
訪問系サービスでは、サービス提供責任者が複数の支援員のシフト調整や利用者対応の統括を担っており、業務負担が集中しやすい立場にあります。各支援員からの記録を生成AIで要約し、サービス提供責任者が全体状況を短時間で把握できるようにすることも、有効な活用方法のひとつです。個々の訪問記録を一件ずつ読み込む時間を削減できれば、サービス提供責任者がより本来の調整業務に注力しやすくなります。
サービス提供責任者向けに「本日の訪問状況サマリー」を生成AIで自動作成する運用にすると、多数の支援員を抱える事業所ほど業務効率化の効果を感じやすくなります。
まとめにかえて
訪問系サービスは移動・記録作成・情報共有という3つの負担が重なりやすい業態です。生成AI・ICTツールをうまく組み合わせることで、支援員の事務負担を軽減しながら、利用者への支援の質を維持・向上させることが期待できます。自事業所の訪問業務のスタイルに合ったツール選びを心がけましょう。
監修
株式会社オルデンティアコーポレーション 福祉DXコンサルタント
福祉施設のDX・生成AI活用を専門に支援。本記事は現場の実務課題に基づき執筆・監修しています。