事故報告書や苦情記録は、障がい福祉サービス事業所において行政への提出や再発防止の検討に欠かせない重要書類です。生成AIを使ってこれらの文書を効率的に作成する事業所が増えている一方で、記載される個人情報の機微性の高さから、取り扱いには特有の注意が必要です。
事故報告書・苦情記録に含まれる個人情報の特徴
事故報告書には、事故に遭った利用者本人の情報だけでなく、居合わせた他の利用者、対応した職員、時には目撃者や家族など、多くの関係者の個人情報が含まれます。苦情記録も同様に、苦情を申し立てた本人だけでなく、苦情の対象となった職員や他利用者の情報が記載されることが一般的です。これらは要配慮個人情報(健康状態、障がいの状況など)を含むことが多く、慎重な取り扱いが求められます。
生成AIに事故報告書のドラフトを作らせる際は、まず事実経過を時系列で整理する段階と、行政提出用に体裁を整える段階を分けて依頼すると、AIの誤要約や事実の歪曲を防ぎやすくなります。「事実のみを時系列で整理してください。推測や評価は含めないでください」といった指示が有効です。
生成AI活用時のリスクと対策
- AIが事実と推測を混同し、不正確な記述をそのまま報告書化してしまうリスク
- 他利用者や職員の詳細な個人情報が、行政提出には不要な形で記載されてしまうリスク
- 苦情記録において、苦情対象となった職員個人が特定される表現が、共有範囲を超えて広がるリスク
- 外部の汎用AIサービスに事故・苦情の詳細を入力することで、情報が意図しない形で保存・利用されるリスク
提出先・共有範囲ごとの記載レベルを整理する
| 提出・共有先 | 含めるべき情報の範囲 | 留意点 |
|---|---|---|
| 行政(自治体)への報告 | 事故・苦情の事実経過、対応内容、再発防止策 | 様式に沿った必要事項のみ記載 |
| 事業所内の再発防止会議 | 詳細な経緯と関係者の対応内容 | 会議参加者以外への流出を防ぐ管理 |
| 家族への説明 | 本人に関連する範囲の事実と対応 | 他利用者・職員個人の詳細情報は伏せる |
作成フローの見直し方
ステップ1: 事実確認・記録の収集
関係者へのヒアリングやメモをもとに、時系列の事実関係を整理します。この段階では個人情報を含む詳細なメモが発生しますが、あくまで内部資料として管理します。
ステップ2: 生成AIによる下書き作成
整理した事実関係を、必要に応じて仮名化した上で生成AIに入力し、報告書・記録のドラフトを作成します。この際、行政提出用・内部共有用など、用途に応じたテンプレートを用意しておくと効率的です。
ステップ3: 人による確認・修正
AIが生成した文章を、事実誤認がないか、不要な個人情報が含まれていないか、複数の職員でダブルチェックします。特に苦情記録は、職員個人への評価につながる表現がないか注意深く確認する必要があります。
ステップ4: 保存・共有範囲の設定
完成した文書は、提出先・共有先ごとにアクセス権限を設定し、不要な範囲への流出を防ぎます。
事故報告書・苦情記録は、後日の裁判や行政指導において重要な証拠資料となることがあります。生成AIによる要約が事実を省略・歪曲していないか、原資料と突き合わせて確認する体制を必ず設けてください。
職員教育の重要性
事故報告書・苦情記録の作成は、個人情報保護だけでなく、事業所の説明責任やリスク管理にも直結する業務です。生成AIを活用する職員に対しては、入力してよい情報の範囲や、出力結果の確認手順について、定期的な研修を行うことが望ましいでしょう。
Hope Care AIでは、事故報告や苦情対応の記録業務を想定した機能設計により、関係者情報の管理や共有範囲の設定をサポートする仕組みを提供しています。
個別の事案における法的な対応方針については、専門家に確認することをおすすめします。
監修
株式会社オルデンティアコーポレーション 福祉DXコンサルタント
福祉施設のDX・生成AI活用を専門に支援。本記事は現場の実務課題に基づき執筆・監修しています。