利用者本人の意思決定支援と生成AI ― 「本人の言葉」をどう尊重するか

利用者本人の意思決定支援は、障がい福祉サービスの根幹に関わるテーマです。ここに生成AIを持ち込むというと、違和感を覚える方もいるかもしれません。「本人の意思」という最もデリケートな領域にAIを関わらせてよいのか。結論から言えば、AIが意思決定そのものを代行することはあり得ませんが、支援者が本人の意思を確認・整理・記録するプロセスを支える形での活用は十分に考えられます。

福祉×生成AI利用者本人の意思決定支援と生成AI ― 「本人の言葉」をどう尊重するかこの記事を読むメリット意思決定支援でのAIの適切な使い方がわかる本人の言葉を尊重する記録の工夫がわかる

意思決定支援の現場で起きていること

意思決定支援ガイドラインが示すように、本人の意思決定支援は「本人の自己決定を尊重する」という原則のもとで行われますが、実際の現場では次のような難しさが日常的に発生しています。

  • 本人の言葉が曖昧だったり、その日の体調で表現が変わったりして、意思を正確に記録に残しにくい
  • 複数の職員が異なるタイミングで聞き取った内容を、一貫した記録としてまとめるのに時間がかかる
  • 家族や後見人の意向と本人の意思が異なる場合、どちらの記録もそれぞれ丁寧に残す必要があり、記録作成の負担が増える
  • 意思決定支援会議の議事録作成に時間がかかり、本来注力すべき本人との対話の時間が削られてしまう
意思決定支援における人とAIの分担意思決定支援の場面人が担うこと本人の意思の確認選択肢を一緒に考える待つ・寄り添うAIが支えること過去の意向の参照会話記録の整理選択肢情報の収集最終決定は常に本人。AIは判断材料を整える裏方
図:AIが増えても「本人の言葉」が中心であることは変わらない

生成AIが担える役割:あくまで「記録の整理」まで

意思決定支援における生成AIの役割は明確に線引きしておく必要があります。本人が何を望んでいるかを推測したり、意思決定の内容そのものを提案したりすることは避けるべきです。一方で、職員が聞き取った内容を整理し、記録として分かりやすくまとめる作業は、生成AIの得意分野です。

場面 生成AIに任せてよいこと 人が担うべきこと
日々の聞き取り記録 断片的なメモを時系列で整理し文章化する 本人の表情や声のトーンなど非言語情報の解釈
意思決定支援会議の議事録 出席者の発言を整理し決定事項をまとめる 本人の意思をどう解釈し尊重するかの合議
家族・後見人への説明資料 記録内容を平易な言葉に言い換える 説明の場での本人の意向確認そのもの
⚠️ 注意したいこと
生成AIに「本人はこう思っているはずだ」という推測を含む文章を作らせてしまうと、記録上の事実と職員の解釈が混同されてしまいます。意思決定支援の記録では、本人が実際に発した言葉や行動と、支援者の解釈を明確に分けて記載することが原則であり、AIにその境界を曖昧にさせないよう入力段階で注意する必要があります。

聞き取りの断片を丁寧な記録に変える具体例

例えば、ある職員が本人との会話の中で「今のグループホームがいい」「でも一人の部屋も気になる」といった揺れ動く発言をメモしたとします。このような断片的なメモを生成AIに渡し、時系列に沿って整理させることで、次回の意思決定支援会議で「本人の意向がどう変化してきたか」を追いやすい記録に整えることができます。ここで重要なのは、AIに「本人の本当の意思はこうだろう」と結論づけさせるのではなく、発言の変遷をそのまま可視化させることです。

💡 実務のポイント
意思決定支援の記録は「いつ、どんな場面で、本人がどう表現したか」をセットで残すと、後から振り返った際に意思の変化や一貫性を確認しやすくなります。生成AIに整理を任せる際も、この3点を必ず入力するよう職員間でルール化しておくと精度が上がります。

会議準備の負担を減らし、対話の時間を確保する

意思決定支援会議では、本人・家族・複数の支援者が集まるため準備に時間がかかります。過去の記録を読み返して論点を整理する作業を生成AIに任せることで、職員は会議当日、本人との対話そのものに集中しやすくなります。具体的には次のような使い方が考えられます。

  • 過去数か月分の聞き取り記録から、繰り返し語られているキーワードを抽出する
  • 前回会議での決定事項と、その後の状況変化を整理する
  • 会議後、決定事項と次回までの支援方針を関係者向けに分かりやすくまとめる

家族・後見人との意向の違いを扱う難しさ

本人の意思と家族の意向が食い違う場面は珍しくありません。このような場合、どちらの意見が正しいかをAIに判断させることは絶対に避けるべきです。生成AIができるのは、双方の発言内容を整理し、それぞれの立場からの意向を漏れなく記録に残すことまでです。最終的にどう折り合いをつけるか、あるいは本人の意思をどこまで尊重するかは、支援者・関係職種が時間をかけて合議すべき領域です。

導入する際に組織で共有しておきたいこと

意思決定支援に生成AIを取り入れる場合、次のような点を職員間で事前に共有しておくと、誤った使い方を防ぎやすくなります。

  • AIは本人の意思を「推測」しない、あくまで記録の整理に徹する
  • 本人の発言と支援者の解釈は必ず分けて記載する
  • 家族・後見人とのやり取りを含む記録は特に慎重に扱い、個人情報の取り扱いルールを遵守する
  • 会議での最終判断は必ず複数の関係者による合議で行う
関連ページ
意思決定支援の記録に対応した機能は機能一覧で、個人情報の取り扱いに関する考え方はセキュリティページでご確認いただけます。制度上の位置づけについては制度解説もあわせてご覧ください。

利用者本人の意思決定支援において生成AIが果たせる役割は限定的であり、それでよいのです。本人の意思を尊重するというデリケートな営みは、最終的には人と人との対話の中でしか成立しません。生成AIはその対話の質を高めるために、記録整理という地味だが重要な下支えの部分を担う存在として位置づけるべきです。

監修

株式会社オルデンティアコーポレーション 福祉DXコンサルタント

福祉施設のDX・生成AI活用を専門に支援。本記事は現場の実務課題に基づき執筆・監修しています。

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