中期計画を作った、あるいは作らなければならないと言われている。しかし正直なところ、前回の計画が今どうなっているか思い出せない――福祉法人の経営者・管理者と話すと、この状態が非常に多いことに気づきます。
この記事は、介護・障がい福祉・児童福祉のサービスを運営する法人の経営者・管理者に向けて、3年の中期計画を「動くもの」として作る手順を整理します。結論を先に言えば、計画が形骸化する原因は書き方が拙いことではなく、3年後の姿を書いて、3年で変える対象を書いていないことにあります。
中期計画が形だけになる3つの理由
理由1:目的地だけを書いて、変える対象を書いていない
「地域から信頼される法人になる」「職員が働きやすい職場をつくる」。こうした一文は方向としては正しいのですが、これだけでは誰も動けません。動くために必要なのは、今の状態のうち、どれをやめ、どれを変えるのかという具体的な対象です。目的地の記述は数行でよく、紙面の大半は変える対象に使うべきです。
なお、社会福祉法人については、社会福祉法第24条第1項が、社会福祉事業の主たる担い手としてふさわしい事業を確実、効果的かつ適正に行うため、自主的に経営基盤の強化を図るとともに、提供するサービスの質の向上と事業経営の透明性の確保を図らなければならないと定めています(出典: 社会福祉法第24条)。計画は、この経営基盤の強化を具体的な行動に翻訳する道具だと考えると位置づけがはっきりします。
理由2:年度事業計画とつながっていない
中期計画と年度事業計画が別の文脈で作られていると、中期計画は参照されなくなります。年度計画は、中期計画の3年分を単純に3等分したものではありません。その年に主役となる領域を1つ決め、残りは維持と明記する。この接続がないと、現場は毎年すべてを全力でやることを求められ、結果としてどれも進みません。
理由3:項目に担当者が付いていない
計画の各項目に担当者名がないと、実質的にすべてが管理者の宿題になります。福祉の現場では管理者が兼務を多く抱えているため、この状態の計画はほぼ進みません。担当を割り当てられないのであれば、それは今期にやらない項目です。書かない判断をしたほうが計画全体の信頼性が上がります。
3年で変える対象を3領域に絞る
領域A:人の配置と育成
最初の年に置くべきは、たいていこの領域です。誰が何に責任を持つのかが曖昧なままだと、業務改善も収支改善も特定の個人の頑張りに依存し、その人が抜けたときに元に戻ります。まず役割と決裁の範囲を書面で切り分け、次に代替できる人を育てる順序です。等級と評価軸の設計については小規模法人の人事評価制度の作り方|等級と評価軸で詳しく扱っています。
この領域の進み具合を測る指標としては、「管理者が兼務している業務の数」や「その業務を代替できる職員の人数」が使いやすいです。定着率や離職率は結果指標であり、動きが見えるまで時間がかかるため、途中の判断材料には向きません。
領域B:業務の型
記録、書類、会議。この3つは、どの法人でも必ず改善余地があります。ここで重要なのは、新しい仕組みを足す前にやめるものを1つ決めることです。福祉の現場が疲弊する典型的な経緯は、良い取り組みが毎年1つずつ足され、何も引かれないことです。
棚卸しの手順は単純です。現在使っている帳票と定例会議をすべて紙に書き出し、それぞれについて「制度上求められているもの」「法人が自主的に作ったもの」に分けます。後者のうち、作った経緯を誰も説明できないものが廃止候補です。会議の設計は決まらない会議を変える3つの型|福祉事業所の会議設計を参照してください。
領域C:収支の構造
3年計画で収支に触れないわけにはいきませんが、初年度から収支目標を前面に出すと、現場は「経営が数字を締めに来た」と受け取ります。順序としては、まず見える状態にすることが先です。サービス別の月次収支が、月が明けてどれくらいで確認できるか。ここが3か月遅れなら、どんな目標も手遅れの確認になります。
見える状態を作ったうえで、稼働率と人件費率を月次で追い、3年目に投資の優先順位を決める型を作る。この順序であれば、数字は現場を追い詰める道具ではなく、判断を早める道具になります。
A4一枚に収める
3領域×3年の9マスで足りる
計画書が分厚くなるほど読まれなくなります。3領域を縦、3年を横に置いた9マスの表に、各マス1〜2行。これで十分です。別紙として年度ごとの担当と期限を付ければ、運用に必要な情報は揃います。
数値目標は各領域1つだけ
指標を増やすと、指標を集める作業自体が新しい業務になります。各領域1つ、合計3つに絞ります。選ぶ基準は「毎月、追加作業なしで数えられるか」です。すでに手元にあるデータから取れる指標のほうが、理想的だが集計に手間のかかる指標より、はるかに長く使われます。
「やらないこと」を明記する
計画には、今期扱わないテーマも1〜2行で書いておきます。新しい事業の検討、施設の建替え、資格取得支援の拡充など、話題に上がりやすいが今期は着手しないものです。書いておくと、期中に持ち込まれた提案を判断する基準になり、計画の芯がぶれません。
回し方:半年に1回だけ見る
点検は年2回で足りる
毎月確認しようとすると続きません。半年に1回、9マスの表を開き、各マスについて「進んだ・止まっている・不要になった」の3択で印を付けます。止まっているマスについては、原因を「担当者の時間がない」「決め方が決まっていない」「そもそも優先度が低い」のどれかに分類します。多くの場合、原因は2つ目です。
職員に見せる版を作る
中期計画を理事会向けの文書だけにとどめると、現場は「上で何か決まったらしい」という受け取り方になります。9マスの表から、その年に主役となる領域と職員に関係する項目だけを抜いた1枚を作り、年度初めに共有します。何が変わり、何は変わらないのかを先に伝えることが、変化への抵抗をいちばん減らします。
変化の中身がICTやAIの活用に及ぶ場合は、目的の説明と手段の説明を分けて伝えると混乱が起きにくくなります。両者の役割の違いは障がい福祉現場におけるDX推進と生成AIの役割の違いで整理しています。
まとめ
中期計画は、将来像を描く文書というより、3年間で何をやめ、何を変えるかを先に決めておく道具です。人の配置と育成、業務の型、収支の構造の3領域に絞り、年ごとに主役を1つ決め、指標は各領域1つ。9マスのA4一枚で運用し、半年に1回だけ点検する。この形なら、担当者が替わっても計画は生き残ります。
よくある質問
Q. 中期計画は何年で作るのが適切ですか?
A. 一律の正解はありませんが、制度改正の周期や職員の入替わりを考えると、3年程度が見通しの立つ範囲になりやすいです。5年で作る場合は、前半3年を具体的に、後半2年を方向性の記述にとどめる二段構成にすると運用しやすくなります。
Q. 職員が少ない法人でも中期計画は必要ですか?
A. 規模が小さいほど、経営者の判断が法人全体に直結します。何を優先するかを文章にしておくことは、期中に持ち込まれる提案を判断する基準になります。分量は9マス程度で十分で、大きな文書を作る必要はありません。
Q. 計画どおりに進まない場合はどう扱えばよいですか?
A. 半年ごとの点検で「止まっている」と判定した項目について、原因を担当者の時間・決め方の未確定・優先度の低さに分類してください。優先度が低いと判断したものは、無理に続けるより計画から外し、外した記録を残すほうが、計画全体の信頼性を保てます。
監修
株式会社オルデンティアコーポレーション 福祉DXコンサルタント
福祉施設のDX・生成AI活用を専門に支援。本記事は現場の実務課題に基づき執筆・監修しています。