生成AIを福祉現場で使い始めるとき、多くの事業所が最初につまずくのが「利用者や家族にどう説明し、何をどこまで書面で残すか」です。ツールの導入判断より、この説明責任の設計のほうが後戻りしにくい部分です。
この記事は、介護・障がい福祉・児童福祉の事業所の管理者に向けて、AI利用に関する同意書を自事業所で作るための考え方と、盛り込む5項目を整理します。ひな型の穴埋めではなく、「なぜその項目が必要か」から理解できる構成にしています。
前提整理:同意が必要なのはAIだからではない
最初に誤解を解いておきます。個人情報保護法は「AIを使うときは同意を取れ」という条文を持っているわけではありません。同意が問題になるのは、AIを使う過程で個人情報の取扱いが法の要求に触れるからです。整理すると、福祉事業所が押さえるべき論点は次の3つに分かれます。
論点1:要配慮個人情報の取得
個人情報取扱事業者は、原則として本人の事前の同意を得ないで要配慮個人情報を取得してはならないとされています(個人情報保護法20条2項。出典: 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」)。障がいや病歴に関する情報は要配慮個人情報に含まれるため、福祉事業所が扱う情報の多くはこの枠に入ります。もっとも、サービス提供のために利用者から障がいの状態を聞き取る行為は、AI導入の前から日常的に行われているものです。したがってAI導入時に新たに整理すべきは「取得」より次の論点2・3であることが多くなります。
論点2:利用目的の範囲
すでに取得している情報をAIで処理する場合、その処理が当初通知した利用目的の範囲内かどうかが問われます。「サービス提供のための記録作成」という目的の中に、記録作成を支援するツールの使用が含まれると読めるかどうかを、自事業所の利用目的の文言に照らして確認する必要があります。この論点は個人情報の「目的外利用」に該当しないための注意点の記事で詳しく扱っています。
論点3:第三者提供・外部委託
クラウド型のAIサービスを使う場合、データが外部の事業者の環境で処理されます。個人データの第三者提供は原則として本人の事前同意が必要とされており(法27条1項)、さらに要配慮個人情報を含む個人データについては、いわゆるオプトアウト方式による第三者提供が認められていません(出典: 個人情報保護委員会 通則編ガイドライン)。委託に該当する場合の整理を含め、線引きは他事業所への第三者提供と生成AI活用の線引きの記事で解説しています。また海外のサーバーで処理される場合は越境移転の論点も生じるため、クラウドサービス利用と個人情報の越境移転規制の記事もあわせて確認してください。
つまり同意書は「法律で1枚の様式が決められているもの」ではなく、これらの論点に対する自事業所の判断を、利用者・家族に説明可能な形で残すための文書です。
同意書に盛り込む5項目
項目1:利用目的と対象業務
「AIを使います」ではなく、どの業務にどう使うかを具体的に書きます。たとえば「面談・会議の音声を文字起こしし、支援記録やモニタリング報告書の下書きを作成するために使用します」といった記述です。ここを抽象的にすると、後で用途が広がったときに同意の範囲を超える判断が難しくなります。逆に細かすぎると運用のたびに取り直しが必要になるため、業務単位で書くのが実務的な落としどころです。
項目2:取り扱う情報の範囲
AIに入力される情報の種類を列挙します。氏名・生年月日・障がいの状況・支援経過など、実際に扱うものを書きます。あわせて、入力しないものを明示すると説明の説得力が上がります。「金融機関の口座情報は入力しません」のような除外リストは、現場のルールとしても機能します。障がい者手帳に記載された情報の取扱いには固有の注意点があり、障がい者手帳情報と生成AI活用の注意点の記事で整理しています。
項目3:委託先と処理環境
利用するサービス名、運営事業者、データがどこで処理・保管されるか、学習に利用されないことの確認状況を書きます。ここは事業所の判断だけでは書けません。利用するサービスの利用規約とプライバシーポリシーで、入力データが学習に使われるかどうか、保存期間、所在地を事前に確認する必要があります。確認すべき項目は生成AIツールの利用規約で確認すべきチェックポイントの記事にまとめています。
項目4:人による確認と管理体制
AIが作成したものをそのまま記録として確定させるのではなく、職員が内容を確認し、責任を持って仕上げることを明記します。利用者・家族が最も不安を感じるのは「機械が勝手に判断するのではないか」という点であり、この一文がその不安に直接応えます。あわせて、アクセス権限の管理や操作履歴の保存といった安全管理措置の概要を1〜2行で示します。
項目5:同意の撤回と不同意の扱い
最も設計が漏れやすい項目です。書くべきことは2つあります。第一に、同意はいつでも撤回できること、撤回の申出先。第二に、同意しない場合でもサービスの利用に不利益が生じないこと。この2つを書けるようにするには、AIを使わない場合の記録運用が事業所側に用意されている必要があります。つまり項目5は文言の問題ではなく、業務設計の問題です。
説明の場で必ず伝える3つのこと
書面を渡すだけでは説明責任は果たせません。特に障がい児の保護者や、判断に支援が必要な利用者への説明では、伝え方の設計が重要になります(この観点は障がい児保護者への説明責任と生成AIの透明性の記事で扱っています)。口頭で必ず補うべきは次の3点です。
- 目的は職員の負担軽減であり、支援の質を下げないこと:記録作成の時間を減らし、その時間を利用者と向き合う時間に戻すという説明は、目的として理解されやすいものです。
- 最終的に人が確認していること:項目4の内容を、書面の文言より平易な言葉で伝えます。
- 断っても構わないこと:項目5を口頭でも明言します。書面にあるだけでは、実質的に選べる状態とは受け取られにくいためです。
運用に落とす際の3つの実務ポイント
同意書を作った後、運用で崩れやすい箇所を先に潰しておきます。
- 同意状況を個人単位で管理する:「事業所として同意を取った」ではなく、誰が同意し、誰が同意していないかを一覧で把握できる状態が必要です。Hope Care AIには利用者ごとのAI同意状況を管理する機能があり、声紋登録の状況とあわせて確認できます。
- 新規契約時のフローに組み込む:重要事項説明や個人情報同意書と同じタイミングで扱う運用にすると、取り漏れが構造的に減ります。
- 小規模事業所は優先順位をつける:体制整備を一度に完璧にしようとすると着手できません。何から手をつけるかは小規模事業所が個人情報保護体制を構築する際の優先順位の記事を参考にしてください。
よくある質問
Q. AI利用の同意書は法律で作成が義務づけられているのですか?
A. 「AI利用同意書」という様式を義務づける規定があるわけではありません。ただし要配慮個人情報の取得は原則として本人の事前同意が必要とされ(個人情報保護法20条2項)、個人データの第三者提供も原則として本人の事前同意が必要とされています(同法27条1項)。自事業所の利用目的や委託の形態に照らして同意が必要になる場面があるため、その判断と説明の内容を書面で残しておく実務上の意義が大きい、という位置づけになります。
Q. 既存の個人情報同意書に一文追記するだけでは足りませんか?
A. 追記で対応する事業所もありますが、その場合も本記事の5項目に相当する内容——どの業務に使うか、何を入力するか、どこで処理されるか、人が確認すること、撤回できること——が読み取れる状態になっているかを確認してください。一文だけでは、説明の場で出る質問に書面が答えられないことが多くなります。
Q. 同意しない利用者がいた場合、どう運用すればよいですか?
A. その利用者に関する情報はAIに入力せず、従来どおりの方法で記録を作成する運用を用意しておく必要があります。この代替運用がないまま同意書を配ると、「断れる」という説明が実質的に成立しません。同意書を作る前に、AIを使わない場合の記録手順を決めておくことをおすすめします。
※本コラムを運営するHope Care AIでは、福祉現場の記録・書類業務に関する資料をお問い合わせページからご請求いただけます。
監修
株式会社オルデンティアコーポレーション 福祉DXコンサルタント
福祉施設のDX・生成AI活用を専門に支援。本記事は現場の実務課題に基づき執筆・監修しています。