「介護記録の文章がまとまらない」「毎回同じような表現になってしまう」——こうした悩みから、ChatGPTなど汎用の生成AIに介護記録の下書きを頼んでみたいと考える職員は少なくありません。しかし、そこに利用者の氏名や病状、身体状況をそのまま入力してしまうと、個人情報保護の観点から重大なリスクを抱えることになります。本記事では想定される失敗パターンとその対策を、事例ベースで解説します。
ケース1:氏名と病状をそのまま入力してしまう
「〇〇さん(78歳、要介護3、認知症あり)の本日の様子を記録用に整えて」といった形でそのまま入力してしまうケースです。これは個人情報、しかも要配慮個人情報に該当する情報を第三者(AI事業者)のサーバーに送信する行為であり、入力内容が学習データとして利用される設定になっている場合、意図せず情報が外部に残り続けるリスクがあります。
無料版の汎用チャットAIは、初期設定では入力内容がサービス改善・モデル学習のために利用される場合があります。設定でオプトアウトできることもありますが、事業所として組織的に管理できていないと、職員個人の判断に委ねられてしまいます。
ケース2:職員が良かれと思って個人の判断で使ってしまう
「記録作成が早くなるから」と、事業所としての方針が定まらないまま職員が個人のスマートフォンや個人アカウントで生成AIを使い、記録の下書きを作成してしまうケースです。この場合、事業所として管理者が把握していない情報の外部送信が発生することになり、万が一情報漏えいが起きた場合の責任の所在も曖昧になります。
なぜ介護記録の入力が特にリスクが高いのか
- 介護記録には氏名、生年月日、住所、病歴、心身の状況など複数の個人情報・要配慮個人情報が同時に含まれやすい
- 「誰が」「いつ」「どのような状態だったか」という組み合わせにより、匿名化しても特定されやすい
- 家族関係や経済状況など、周辺情報まで記載されることがある
- 記録は継続的に作成されるため、入力の積み重ねによって情報量が増えていく
比較:入力してよいケースと避けるべきケース
| 場面 | リスク評価 |
|---|---|
| 「〇〇さん、要介護3、本日発熱あり」とそのまま入力 | 高リスク(要配慮個人情報を含む個人情報の外部送信) |
| 「利用者A、体温37.8度」など匿名化・記号化して入力 | 中リスク(他の情報との組み合わせで特定されないよう注意) |
| 個人情報を含まない文章のみ表現を整える依頼 | 比較的低リスク |
| 介護業務向けに設計され契約上データ管理が明確なシステムを利用 | 組織的な管理がしやすい |
事業所としての対策
職員個人の判断に委ねず、事業所として明確なルールを定めることが重要です。具体的には次のような対策が考えられます。
- 汎用生成AIへの利用者情報の入力を原則禁止とする運用ルールの策定
- 記録支援が必要な場合は、介護・福祉業務向けに設計され、契約上データの取扱いが明示されたクラウドサービスを利用する
- 職員研修で「なぜ入力してはいけないのか」を具体例とともに周知する
- 個人所有の端末・アカウントでの業務利用を制限する
記録作成の負担軽減という目的自体は正当なニーズです。汎用AIの利用を単に禁止するのではなく、目的に合った業務特化型のツールを組織として選定し、安全に使える環境を整えることが現実的な解決策になります。
Hope Care AIでは、介護記録の作成支援を想定した機能を、個人情報の取扱いに配慮した形で提供しています。詳しくは機能一覧およびセキュリティのページをご覧ください。
最後に:判断に迷ったら専門家へ
個人情報保護法の解釈や、事業所として負う法的責任の範囲については、個別の事情によって判断が異なります。不安がある場合は、弁護士や社会保険労務士など専門家に確認したうえで、事業所としての運用ルールを固めていくことをおすすめします。
監修
株式会社オルデンティアコーポレーション 福祉DXコンサルタント
福祉施設のDX・生成AI活用を専門に支援。本記事は現場の実務課題に基づき執筆・監修しています。