個人情報保護法には、個人情報を一定の基準で加工することで、より柔軟な利活用を可能にする「匿名加工情報」と「仮名加工情報」という制度があります。生成AIを活用した分析やサービス改善を検討する障がい福祉・介護事業所にとって、この2つの制度の違いを理解しておくことは有用です。本記事では両者を比較しながら、生成AI活用との関係を解説します。
匿名加工情報とは
匿名加工情報とは、特定の個人を識別することができないように個人情報を加工し、かつ、その個人情報を復元できないようにした情報をいいます(法第2条第6項)。適切に加工されていれば、本人の同意を得ることなく第三者に提供することも可能とされています。
仮名加工情報とは
仮名加工情報とは、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないように個人情報を加工した情報をいいます(法第2条第5項)。匿名加工情報と異なり、事業者内部での分析・利用を目的とした制度であり、原則として第三者への提供はできません。
2つの制度の違いを比較する
| 項目 | 匿名加工情報 | 仮名加工情報 |
|---|---|---|
| 識別性 | 復元不可能な水準まで加工 | 他の情報と照合すれば識別可能 |
| 第三者提供 | 一定の公表等を条件に可能 | 原則不可(内部利用限定) |
| 利用目的の制限 | 比較的緩やか | 変更後の利用目的の公表等が必要な場合あり |
| 主な用途 | オープンデータ化、外部提供を伴う分析 | 内部でのデータ分析・AI活用 |
生成AI活用とどう関係するのか
障がい福祉・介護事業所が生成AIを使って、例えば「支援記録の傾向分析」や「サービスの改善点の抽出」を行いたい場合、個々の利用者の氏名や特定情報を含んだまま外部のAIサービスに投入することは、個人情報保護の観点からリスクを伴います。ここで仮名加工情報や匿名加工情報の考え方を応用し、氏名等の識別子を削除・置換したうえで分析に用いることで、リスクを一定程度低減できる可能性があります。
「氏名を消せば匿名加工情報になる」というわけではありません。匿名加工情報として認められるには、法令・ガイドラインが定める加工基準(特異な記述の削除、他の情報との連結の防止など)を満たす必要があり、専門的な加工プロセスが求められます。安易な自己判断は避けましょう。
事業所が誤解しやすいポイント
- 誤解1:「利用者IDに変換すれば匿名加工情報になる」→ 仮名加工情報や単なる仮名化にとどまる場合が多く、匿名加工情報の要件(復元不可能性)を満たさないことがある
- 誤解2:「仮名加工情報にすれば生成AIに自由に入力してよい」→ 仮名加工情報は第三者提供が原則できないため、外部の生成AIサービスに入力すること自体が、そのサービス事業者への「提供」に該当し得るかを別途検討する必要がある
- 誤解3:「加工すれば同意取得は一切不要になる」→ 加工の程度や利用目的の変更内容によっては、公表や本人への配慮が必要な場合がある
障がい福祉分野の利用者データは、障がい区分や心身の状況など特異な記述を含みやすく、単純な氏名削除だけでは「他の情報と照合すれば特定できてしまう」状態になりがちです。加工の適切性については、個人情報保護に詳しい専門家の確認を得ることを強くおすすめします。
事業所として現実的に取れるアプローチ
- 本格的な匿名加工情報・仮名加工情報の作成は専門知識を要するため、まずは分析用途を明確にし、必要最小限の情報だけを扱う設計にする
- 外部の汎用生成AIに分析を依頼する場合は、個人を特定し得る情報を含めない、集計済みのデータのみを扱う
- 個別利用者の情報を扱う分析が必要な場合は、契約上データの取扱いが明確な業務特化型システムを利用する
まとめにかえて
匿名加工情報・仮名加工情報の制度は、データ活用と個人情報保護のバランスを取るための重要な枠組みですが、加工基準の判断は専門性が高く、事業所単独での対応には限界があります。生成AI活用を進める際は、まず「個人が特定される情報をそのまま外部に出さない」という基本原則を徹底し、本格的な加工が必要な場合は専門家に相談することをおすすめします。Hope Care AIの特長ページやセキュリティページでは、事業所がデータをどう安全に活用できるかについての考え方を紹介しています。
監修
株式会社オルデンティアコーポレーション 福祉DXコンサルタント
福祉施設のDX・生成AI活用を専門に支援。本記事は現場の実務課題に基づき執筆・監修しています。